(三)
京→米沢(元治元年夏)
拝啓
於幸様にはつつがなくお過ごし候にや。
御無沙汰しております。卯の花の項となりました。於幸様のお好きな干菓子などお送りいたします。金平糖と御題菓子にて。
京は上菓子屋がひしめく王城の地に御座いますれば、於幸様にも喜ばしき処かと。但、近頃とみに徘徊する過激浪士などの殺伐の気風さえなくば。
此度稲葉長門守様老中昇進、東帰に際し、寡人畏れ多くも所司代拝命賜り就任致しました儀、御報告申し上げます。
尊兄肥後守様、格別の御配慮に拠り、御公儀の為守護職佐くること、京の護りたらんこと、日々吾身に刻んでおります。
先月、鷹ヶ峰の藩邸より役宅へ遷りました。公務に取紛れ、御報告が遅れましたこと、何とぞ御寛容下さいませ。
御身体ご自愛くださいませ。是にて。
京こにてにほへる花と呼ばれけむ葵の下の人はめでたし
甲子五月七日 定敬
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注:
【お題菓子】…季節のお題にそって作った和菓子。
【上菓子屋】…上白糖など、普通の駄菓子より上質の材料を使ってつくった和菓子の店。京では、上菓子屋の組合があった。
【稲葉長門守】…第56代京都所司代・稲葉正邦。元治元年四月十一日より老中となる。
【肥後守】…京都守護職・松平容保。容保の進言によって定敬の所司代就任が下された。
【鷹ヶ峰の藩邸】…桑名藩邸は洛北・鷹ヶ峰にあったという。千本通を北上し、周山街道の入口に当たる京洛の北口であり、護りの要所であったことから置かれたと思われる。周山街道は「鯖街道」の一つとして若狭と京を結ぶ120キロほどの道。御室仁和寺の前から高雄、栂尾(とがのお)の高山寺などの世界文化遺産がある地域を通って京北町(現・京都市右京区)を抜ける、現R162号線とほぼ同じ。藩邸は二条城、禁裏からは直線距離で5キロほどあって遠く、洛中を一望できる高い土地にある。