あとがき

 京都に住んで間もない頃、バスの系統もよく判らずに過していた。利用した事が無い番号が多く、いまだによく判っていないが、その一つに「4号系統」がある。行先は「深泥池」だ。
 最初、読み方が判らず「しんでいいけ」?と思ってしまった無知な作者だが、やがて折々の会話から「みどろがいけ」あるいは「みぞろがいけ」と読む事が判明し、バカをさらけ出さずに済んでほっとしている。「みぞろがいけ」と読む方が多いのだろうと思う。
 場所は、地下鉄北山駅を降りて徒歩で西北へ10分ほど向かえばあるのだが、一見して「あれ?そんなに大きくない」と思えるような池。しかし、実は浮島とその周辺を覆うヨシの群生で池面も大半が見えない。
 池の歴史は氷河期までさかのぼることができるそうだ。
 深泥池には流れ込む川がなく、池の水は雨水や地下水によって成り立っており、水質は貧栄養で有機物の分解が進まず、池の底にはミズゴケなどが泥炭となって20m近く堆積しているらしいが、最近は富栄養化が進んで、浮島の周辺にヨシなどが生え、貧栄養で育つ植物が圧迫されて危機に瀕しているとも聞く。
 外来種のブルーギルなどが入って、池の生態系を破壊したり、周辺に住宅が増えて汚染が心配されたりと、とかく問題は絶えない。
 散策は出来ても立入るには京都市の許可が必要なので、いつも周辺道路から眺めるだけだ。
 
 そして、この深泥池には「タクシー伝説発祥の地」という輝かしい噂がある。
 「深夜、あるタクシーの運転手が女性客を乗せた。目的地にむかう途中、ふと後部座席を見ると、女性客の姿はなく、シートがびっしょり濡れていた――」

 という例のよくある怪談。
 ゆえに、この「深泥ヶ池」の話を考え付いた。
 それだけではない。ここは古くからの伝説が多く、奈良時代の高僧「行基」が池の中から弥勒菩薩が現れるのを見た事から「御菩薩池」とも呼ばれる。
 或いは、室町時代の説教「小栗判官(おぐりほうがん)」に登場する大蛇の話や、池の浮島が巨大なサンショウウオであるという、上賀茂の昔話「深泥池の主 サンシとサンショウウオ」。
 昔から、このような怪物の棲む池として恐れられ、和泉式部も「名を聞けば 影だにみえじ みどろ池 すむ水鳥の あるぞあやしき」と詠んだ。
 また、貴船神社への参道であったために神聖視され、浮島には社が立っている。
 その貴船神社と関わって、「豆塚伝説」が残っている。 鬼が貴船の奥から地下の道を通り、この 深泥池の畔より出て世間、都を騒がせて いたけれど、鬼が嫌う炒り豆を穴に投げ 込んで鬼を撃退したと伝わり、一説には これが、節分行事の始まりとも云われる。とても奥が深い池なのだ。ゆめゆめこういう犯罪に利用してはならない、と書いてから思ってしまった。


 ちなみに、弁天祠は立っていません。フィクションです。


【参考HP】

「深泥池ネットワーク」
:天然記念物である深泥池のプロフィールやNGO団体の活動などを紹介しています。


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