第九話
 〜戦場のカリアティード cadere sul campo di battaglia


終章 タイガーズ・アイよ永遠に THE TIGER’S EYES ARE FOREVER  
 
 《銃将》ブランディ・ガンプこそ、ザザ村の葬儀屋ビジュウ・クラレット。
 ジン・スティンガーがその正体に気付いたのは、ついほんの数分前だった。迂闊と言えば迂闊だが、まさか民間人、しかもオペラの父親だとは思いも寄らなかった。アウトストラーダで見失った時、お互いに足は無かった。自前の足だけだったのだ。
 それを鑑みるに、ザザ村に逃げ込んだと考えるべきだったのだが。
 ジンは《ブラックホーク》を、構えたまま、ブランディ・ガンプの顔を見詰めた。
 既に、オペラ・クラレットの父親、ザザの葬儀屋としての顔を脱ぎ捨てたビジュウ・クラレットは、パウダーガン使いブランディ・ガンプになっていた。
「封印していた筈のこの右腕を、再び呼び起こすことになろうとはな」
 ブランディ・ガンプは、白いものの混じり始めた自分の髪を撫でた。その右手に握られているのは、実に大振りの銃だった。
 《S&Wモデル03A7・キリングシンガー》。小型ライフルにも似た形状のパウダーガンは、西部開拓時代そのままのデザインを使ったレプリカだが、少しも古びた所が無い。
 その大型リヴォルヴァーを、こんな中肉中背の中年男が、どうやって使うのか、ビジュウ・クラレットを見た時は疑わしかった。
 だが、その疑念も今はジンには微塵も無い。
 ブランディ・ガンプは、やはり一分の隙も与えない名うてのパウダーガン使いだ。
「あんたが悪いぜ」
 と、ジンは言った。
「オレの銃は紛れも無く《ブラックホーク・ディオファイア》だ。盗品でも偽物でもない。疑ったあんたは、自分で自分の首を締めたんだ」
「その通りだ」
 ブランディ・ガンプは、大きく溜息を吐いた。
 たまたま、通り掛ったアウトストラーダで会った若者が腰に提げていたパウダーガンが、目に付いただけのことだった。何の興味も示さなければ、良かった筈である。
 だが、それが《ブラックホーク・ディオファイア》であると判った瞬間、ビジュウ・クラレットは、我を忘れていた。
 後はもう成る様にしか成らない。
「とはいえ、もともと《神鎗》に与えられる筈の銃を、何故お前が持っているのだ?」
「何度も同じ事を訊くなよ。オレは物心付いた時から、これを持ってんだ」
「そんな筈は無い。今一度、お前がそれを持つに相応しいかどうか・・・試してみるか?」
 ブランディ・ガンプは不敵な笑みを見せた。オペラは、茫然とした顔でジンを見遣った。何が何だか理解出来ないらしい。だが、ごく近い将来、父親の身に異変が起こり得る可能性だけは悟っている様子だった。
「なあ。その辺の事情は説明してやるから。お二人さんとも物騒なモンを収めろっての」
 と、至って呑気な提案をしたのは、アーチだった。
 ジンはきっ、とサングラスの下からアーチを見据える。
「事情が何だって!?部外者は引っ込んでろ!」
「部外者だとさ」
 アーチは肩を竦め、オペラに寄り添った。少女は、アーチを睨み上げる。
「何が事情よ。どうせハッタリでしょ!」
「まあな」
 ジンとブランディ・ガンプは、古典的方法に則って、互いに後ろを向き歩き出した。
「一、二、三・・・」
「勝手におっぱじめやがったぜ」
「うるさいわね」
 オペラは、アーチの身体をどついた。
「四、五、六・・・」
 もう《アレキサンダーズ・シスターズ》のことなど、何処行く風。
「七、八、九・・・」
 そして、カウントが途切れた瞬間。双方の右腕から、白い閃光が放たれた。光に遅れて、重なり合う銃の発射音。腹に響く重低音が、夕闇に轟く。空は、既に紫色の帳を下ろし掛けていた。
 数秒の静寂と、二人の男の視線が絡み合う。
 先に膝を付いたのは、ブランディ・ガンプの方だった。両腕を突いたブランディ・ガンプに駆け寄るオペラ。ブランディ・ガンプの右太腿からは、赤黒い血が流れ出し始めた。44マグナム弾は、貫通していた。
 ジンは、腹を押さえてその場に屈み込んだ。
 《S&Wモデル03A7・キリングシンガー》の発した弾丸は、ジンの左脇腹を掠めていったに過ぎなかった。だが、僅かな衝撃と雖も傷の癒えないジンにとっては、苦痛を伴う勝利だった。
 ジンは面を上げた。ブランディ・ガンプの背を覆う、オペラの姿が眼に映った。
「・・・ジン・スティンガー」
 ブランディ・ガンプは嗄れた声で、ジンに呼び掛けた。
「私の負けだ」
「何言ってやがる、おっさん。わざと外しやがったな」
 ジンは舌打ちした。その表情を見て、ブランディ・ガンプは苦笑した。
「いや。もう私は年だ。しかも、この間まで十数年、この《S&Wモデル03A7・キリングシンガー》を握っていなかった。若い頃は兎も角、今はこの腕には重過ぎる」
「オレを撃ったのはマグレだってのか?ウソこけ」
 ジンは、痛みが収まると、ゆるゆる立ち上がった。《ブラックホーク》を右手親指と人差指の間でクルクルと回し、腰のホルスターにぴったり収める。
「疑い深い男だな。お前さんの持ってる《ブラックホーク》なんか、私にはとても手に負えないな。《銃将》の名も返上したほうがいいかも知れない」
 ブランディ・ガンプはオペラに支えられながら、起き上がった。ジンは、テンガロン・ハットを目深に被り直す。
「いいや。あんたの腕は、まだ確かだよ」
 
 《ザザ診療所》の奥、処置室の中では局部麻酔を受けたビジュウ・クラレットが横たわっていた。
 白衣をを着換えたアーチは、ビジュウ・クラレットの右腿を洗浄し、大雑把な手付きで消毒液に浸した脱脂綿を押し付ける。
「ああ、何て大胆な・・・」
 嘆息を漏らしたのは、ジンである。
「やかましい。一般人が処置室に勝手に入りやがって!」
 アーチは、マスクを毟り取った。
 ビジュウ・クラレットの左腕の血管を確保し、これもががっ、と消毒すると、徐に点滴の注射針を刺す。まさしく軍隊式の荒療治だ。自慢出来るかどうか、アーチ本人は判らないのだが、軍隊以外での臨床経験は皆無に等しい。研修医時代のルイ・パストゥール研究所では、クローン・ラット類にしか触っていない。兵士達は少々荒っぽくて普通だったし、流しの医者をやっていても、内科的治療が大半だ。
「言っとくが、オレはこう見えてもなよなよした外科治療はしない。ダメなら切る。切らなきゃ、とことん強引に直す」
「ひええ。いててて」
「お前に点滴してんじゃない。うるさいヤツだな。一本打つぞ」
 アーチは、ジンを睨み付けた。ジンは舌を小出す。その隣で、ちょこなんと座っているのはオペラだ。先刻から、一言も喋らないでいる。あれほどマシンガン・ブラスター並みに喧しく喋っていた少女がだ。
「どうしたんだ、お嬢ちゃん」
 点滴のポリ袋に何やら黄色い液体を注射するアーチを、オペラはゆっくりと見上げた。
「お父さんの治療費、幾らとるつもりなの?」
「・・・がっくし」
 アーチは、使用済みの注射器をゴミ箱に捨てた。
「こんなモンで治療費なんかとれるかい」
 その言葉を聞いて目を瞬いたのは、ジンの方だった。
「な、なんでだ!なんでオレは九万五千ダッシュもの治療費を要求しておいて、おっさんはタダだって!?」
「アホ抜かせ」
 と、アーチは一蹴する。
「お前のは、生命の危険に関わる傷だったんだ。礼こそ言われて当然だが、何で謗りを受けにゃならんのだ」
「うぬぬぬぬぬ!」
 横たわるビジュウ・クラレットを挟んで、二人は対峙した。大声を出したら、お互いの顔に唾が掛かりそうなくらいの至近距離だ。
「待ってよ」
 そう言って二人を制したのは、オペラ・クラレットだった。少女の瞳には、雲が掛かっていた。
 オペラは、アーチの方を向いて言った。
「・・・仕方ないわ。タイガーズ・アイを渡すから」
「は?」
「いいでしょ、お父さん」
 オペラは、瞼を閉じた父親の顔を見た。眠っているのかと思えたが、そうではない。ビジュウ・クラレットは、ゆっくりと重い瞼を上げ、頷いた。瞳に宿った悲しみと諦念は隠しようが無かった。
 その直後、どたばたと廊下を誰かが走る音が聞こえたかと思うと、処置室の中にパジャマ姿の老人が駆け込んで来た。
「タイガーズ・アイをくれてやるじゃと!?」
「おじいちゃん!まだそんなに走ったらダメでしょう!」
 どすどす、という音が続いてヴィオレッタが老人の襟首を掴もうと走って来た。サイかカバかと思える勢いだった。
「や。もう治りましたか、プース医師」
 嬉々として言ったのは、アーチである。
「治るも治らんも、これがじっとしておられるかい」
 プース医師は、星を散りばめただぶだぶのパジャマを着ていた。腰を屈めているところからして、ぎっくり腰は完全に癒えていないと見える。まるで乾涸びたアヒルに似た風貌である。アヒルにカバとは、動物園のような診療所だな、とジンは思った。
「ザザ村の至宝タイガーズ・アイは、この村に神が与えたもうた物だからの、おいそれと他所者にくれてやるわけにはいかんのだ」
「余所者だなんて!」
 意外にも、そう叫んだのはオペラだった。
「二人共、私達父娘を助けてくれただけじゃない、あの《アレキサンダーズ・シスターズ》を追い払ってくれたのよ」
「そうだそうだ」
「手前ぇで言うことじゃあないだろ」
 茶々を入れたアーチの方を、ジンはじろり、と見据えた。
「オペラ」
 ビジュウ・クラレットは、娘の顔を見上げた。
「元々は、あれは・・・タイガーズ・アイは私達家族の物ではないのだよ」
「え?」
 オペラ・クラレットが生まれる前の出来事だ。
 バルカン半島に起こった内紛の煽りを受けて、このザザ村にも不穏な空気が立ち込めていた時期だった。ある日、脱走兵或いは難民と思しき人物が、ザザ村を訪れた。
 それは、訪れたというよりは殆ど瀕死の状態で倒れ込んで来たという方が妥当な表現だろう。
 若い兄妹だった。瀕死の重傷を負っていたのは兄の方で、妹はそんな兄を救ってくれる医師を捜して、漸く《ザザ診療所》に辿り着いた。
「じゃが、悲しい哉、兄は既に手遅れだった。敗血症でな。村に来てから三日後に手当ての甲斐も無く死んだよ」
 プース医師は、アヒルのような薄く尖った唇を歪めて言った。
「妹は・・・?」
「妹の方は、何も出来なかったわしに丁重に礼を言うてな、大層な包みを差し出した。包みの中には・・・」
「そうじゃとも。タイガーズ・アイが娘の掌にあった。わしに『兄を弔って頂いて、何と申し上げて良いものか判りません。せめてもの気持ちです。村の為に役立てて下さい』と言っての」
 死に掛けのよぼよぼの割には、大した記憶力ではないか、とアーチは訝った。かなり脚色めいたセリフ回しが気になるが、老人の思い出話とはこういうものだ。
 その疑惑めいた眼差しを、プース医師は撥ね退けた。
「無論、断ったよ。『娘さん、あんたはまだ若い。これから一人で何かと入用だ。宝石はとって置きなさい』とな」
「おお」
 娘はプース医師の言に従った。そして、村に留まり、兄の眠る墓地を見守りながら働いた。
「その娘がお前の母親ラウラなんじゃよ」
「お母さんが・・・」
 オペラは声を詰まらせ、ビジュウ・クラレットを見た。父親は静かに頷いた。余計な事は言わずもがな、の表情だった。
「タイガーズ・アイは母さんの家系に伝わる物でな。母さんが死んだ時、一緒に墓に埋めるつもりだったんだが・・・。何故だか、不思議な事に、その時宝石は姿をくらましていた」
「え?」
「今から考えて見れば、不思議でも何でもないような物忘れなんだが。母さんが『埋めないでくれ』と言っているように思えてね。それで、丁度建築中だった公園の人像柱に埋め込んだ。あそこなら、墓地を一望出来るじゃないか。母さんと、母さんの兄さんが眠る墓地を」
「・・・お父さん!」
 オペラは、ビジュウ・クラレットに縋った。少女の両頬を涙が伝っている。父親の顔に戻ったビジュウ・クラレットは、娘のか細い肩を抱き寄せた。
「お父さあああん!ごめんね・・・ごめんね。そんな大切な物を・・・」
「ああ、ええ話や」
 アーチは白衣の裾で両目を覆った。すかさず、ジンは後頭部に手刀をお見舞いした。
「いでっ」
「何抜かす。手前ェが総て混ぜっ返してるクセに!」
「るせい。お前が最初、あのオヤジと遣り合ってなかったら、こんなややこしい事にはなってない!」
「パウダーガン使いの性(さが)でい。手前ぇこそ、何だあの銃は?盗品じゃあるまいな」
「舐めやがって。盗品だなんてよくも言ったな!」
「やるか!?」
「売られた喧嘩は借金してでも買うのが、ヴェネツィアっ子の流義だ!」
 二人は、同時に互いの銃を抜く。一頻睨みあったところで、じりじりと後退しながら面へ出ようとした。
 ぐわん。ジンとアーチの頭蓋を、ほぼ同時に何か重い物が直撃した。
「何度言ったら判るの!?いい加減にしなさいよ、あんた達!」
 オペラの振り下ろした酸素吸入器が、半壊し掛けていた。二人は、期せずして仲良くその場に失神した。

 村はずれにある、墓碑の並ぶ丘。
 夕陽の沈む頃、丘は一面朱に染まり、絵画的な風景を見せてくれる。古戦場の記念として建てられた遺跡。
 これが何の古戦場なのかは、未だに誰も知らない。キリスト教にとって、異教であるギリシア神の象徴であることからして、謎である。
「お父さんによろしくな」
 と、言って《デアデヴィルXIS》に跨ったまま手を差し出したのは、アーチ。オペラは、その手を握り返す。少女の柔らかい手は、夕陽の温もりを残して離れた。
「その・・・いろいろとごめんなさい。さんざんアナタを悪人呼ばわりして。ホントは悪い人じゃないって、思ってたんだけどね」
 オペラは恥ずかしそうに言った。
「良い人と呼ばれる方が、男にとっては悲しいものさ」
 アーチは片目を瞑って見せた。だが、オペラは、既にアーチの方は見ていない。
「済まなかったな。パウダーガン使いとはいえ、キミのお父さんを撃ってしまった」
 ジンはテンガロン・ハットの顎紐を弛めた。風は凪いでいる。
「あの時は驚いたわ。まさか、お父さんがパウダーガン使いだったなんて・・・今でも信じられないのよ」
 オペラは、自分の胸に両手を置いた。
「何で、隠していたのかしら・・・?」
「この村を見ろよ」
 ジンは深呼吸した。そうして、丘を一望すると、オレンジ色に染まった空を見上げる。オペラも慌てて、ジンの視線を追った。
「こんな空気が良くて平和な村に、パウダーガンなんて必要無い。そう思わねえか?」
「・・・そうねぇ」
「父親なら、硝煙の臭いなんかする手で娘を抱きたくはないだろう」
 ビジュウ・クラレットは多くを語らなかった。語らずとも、対決したジンは、その数十秒の間にブランディ・ガンプというパウダーガン使いが、何故ビジュウ・クラレットという素顔の男に戻ったか、判ったような気がした。
 その昔、ラウラという心根の優しい娘が、そうさせたのか、果たしてこの村の平和な空気がそうさせたのか。
 それとも、至宝タイガーズ・アイの奇蹟か。
「縁があったらまた会おうぜ」
 ジンの手を握り締めたオペラの手が、名残を惜しむかのように静かに離れる。最後に触れた、右手の人差指の腹の柔らかさを、ジンは一生忘れないだろう。
「さようなら・・・ドジなパウダーガン使い」
 オペラは、遠ざかって行く二台のバイクを見送った。そして、腕まくりをすると、大声で叫んだ。
「よっしゃ。私はパウダーガン使いにはなれないけど、子供は絶対パウダーガン使いにするから。そん時まで、引退しないで現役でいてよねぇ!」
 返事は聞こえない。だが、オペラには、ジンが「おう」と応えたような気がした。

「お嬢ちゃん、あんな事言ってるぜ。どうする?」
 アーチは悪戯っぽい笑みを浮かべて、ジンの顔を覗き込んだ。ジンは革ジャンの内ポケットから、マルボロの包みを取り出した。器用に一本だけ取り出して咥えると、ジッポ・ライターで素早く火を点ける。
「どうするもこうするも、くたばるまでオレはパウダーガン使いだ」
「かっちょいいねえ」
「お前こそ何だよ。何でオレに付いてくんだよ?」
 ジンはサングラスの下から、あからさまな疑惑の眼差しをアーチに向けた。
「何言ってんだ。まだ治療費貰ってないもん。付いて来られるのが嫌なら、払えよ」
「げ」
 ジンは思わずマルボロを落とし掛けた。そうだ、すっかり忘れていたが、九万五千ダッシュをこいつに払わねばならなかったのだ。
「払わないというんなら、出るところへ出て貰おうじゃないか」
「出るところ?」
 ジンは、ギョッとなった。アーチは、相変わらず余裕の笑みを浮かべている。惚れ惚れするような美しい金髪が、微風に流れる。
「ヴァティカンさ」
「何でまた」
「話せば長い。が、詰まる所、お前のその腕を見込んでの事らしいぜ。教皇勅命だ」
「ちょ、勅命!?」
 ジンは《イケヅキCR−X》から転げ落ちそうになった。ギアをニュートラルに入れ、一旦停止する。アーチも、並んで《デアデヴィルXIS》を停めた。

「《神鎗》シルヴァー・ブレットを捜し出すように。そして、お前が《神鎗》を倒すんだとさ」
「うううむむむ。いきなりそんな事言われても」
「詳しい事は知らないんだよね、オレも。オレは只お前を捜せと言われてただけだからなぁ・・・」
 首を傾げるアーチの胸倉を、ジンは掴んだ。
「て、手前ぇ。そいじゃ、最初っから仕組んでやがったのか!オレを治療したのも、そうなんだな!?」
「はっは、今頃気付いたか」
 アーチは高らかに笑う。ジンは、その一歩間違えば悪趣味以外の何でもないネクタイを、引っ張るだけ引っ張った。
「チクショウめ!」
「ああ、何て事しやがるんだ。生地が伸びちまったじゃないか。高かったんだぞ、これ」
「弁償なんざしねえよ、こんちくしょう」
 ジンはマルボロを噛み捨てた。勿体無いという意識は、何処かに置き去りだ。
 《イケヅキCR−X》は、再び発進した。
「おいおい」
「逃げやしねえ!西はどっちだ?」
 ジンは苦笑を浮かべながら、言った。してやられた感は否めないが、それもいいだろう。よく判らないが、パウダーガン使いとしての真価を試されようとしているのだ。こんな機会が二度とある筈もない。乗ってやろうではないか。
「ホンマもんのアホだな・・・夕陽に向かって走ればいいんだよ」
 アーチは呟いた。
 実際、ジン・スティンガーが《神鎗》を捜索の旅に出るのは、この半年後からになる。
 
   <DISMISSED!>・・・CONTINUED ON NEXT DUEL
第9話あとがき

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