第十四話
 〜ディジトゥス・デイ 神の指  disitus dei


第三章 海は千億の顔を持つ  
 
(1)
 
 撃たれて三日目に、オヤジはICUを出た。普通の病室に越してから、オレはオヤジの所へ行った。病室は、何処も殺風景だ。病室を飾るのは余り愉快な事ではないだろう。入院が長引いている証拠だからだ。
 昨晩は今年いちばんという冷え込みで、今朝から、天気がぐずついていたが、とうとう午後になって雪が降り出した。
 オヤジは、身動き出来ず、専ら点滴と導尿管を身体に差し込まれた哀れな格好で、ベッドに横たわっていた。水平に寝てばかりでは、腰に負担が掛かるので、ベッドは心持上半身だけ斜め十五度くらいに持ち上がっていた。
「マリーナは?」
 と、訊ねると、オヤジは目を瞬いて答えた。
「今日は来られないかも知れないそうだ・・・。シンポジウムの準備があるから」
 オヤジは、そのシンポジウムとやらで挨拶をする予定だった。だが、予定外の入院で、代わりの人間を立てる事になった。それでマリーナは多忙を極めているのだという。
「オヤジ、撃たれた晩の事を覚えてるか?」
 オレは、オヤジに背を向けたまま訊いた。窓の外は、白い。
「・・・いや。はっきりと覚えていない」
「そう」
 オレは、自答するように言った。少女の事は一切触れない方がいいのだろうか。兎に角、黙っている方が良いだろう。
 オヤジの事だ。もしかしたら、記憶しているのかも知れない。だが、オレはそれ以上追究するつもりは無かった。
「オヤジを撃ったのは、これさ」
 と、オレは38口径ファントム弾を、ポケットから出して見せた。
 オヤジは弾丸を見詰めるだけで、触れようとはしなかった。
「パウダーガンで撃たれたのは、初めてじゃない」
 意外な言葉に、オレは目を瞬いた。オヤジは、血色がやや戻りかけた頬を緩めた。オレは、丸椅子に腰を下ろした。
「お前のジイサンが死んだ時だ」
 オヤジは、微かに嫌な風を含んだ息を吐きながら、言った。
 ガブリエル・ブールヴァルド。
 元ヴァティカン教皇報道官。
 
東洋哲学者でもあり、前々教皇インノケンティウス31世の家庭教師も務めた。
 教皇報道秘書官とは、読んで字のごとくカトリックの総本山である教皇のスポークスマンだ。
 ただ、言われた事を伝達するだけではない。教皇の対外的な頭脳として、働くという意味をも有する。
 教皇の側近ともいうべき役職だ。だが、必ずしも聖職者がつく必要はなく、ジイサンのように民間人でもなれるのだ。何故、ジイサンが抜擢されたのかは、想像に難くない。
 当時の学界で、ジイサンは《科学撤廃主義》というものを提唱するグループを作っていた。
 ヴァティカンは、二十二世紀から、人の手に拠る科学生産物を否定する考えを推進するようになった。
 《科学撤廃主義》の公表。
 戦争と自然災害で荒廃した地球を再生するには、自然に帰する事が第一と考えた教皇ユリウス11世により、フェルラーラ公会議で発布された。
 以後、ローマ・カトリック教会は完全にチエーロと呼ばれる上層都市群と分断され、独自の路線を歩むことになる。
 非常に重要な思想主義だ。その真偽、支持如何は兎も角、これで世界の指針は決定したのだ。
 ガブリエル・ブールヴァルドは、そのドグマの中心にいた。たまたまいた、というだけかも知れないが、教皇の厚い信頼を得たのは確かだ。
 そもそも、何を持って科学と呼べるのか?
 オレにとっては、その方が疑問だ。
 社会科学も人文科学も、総て「科学」と名が付けば科学ではないか。一定の法則に基づき、無機物を媒介にして学問をやるという点では、物理学も文学も「科学」だ。
 古文書或いは木簡類、粘土板の出土文字を解読するのだって、年代測定には機器も使えば化学的分析もする。言語学などは、ある意味統計学的な要素を持っているではないか。
 総じて「科学」と言ってしまえば、学問は既におしまいだ。
 そういう意味の「科学」ではない。
 判りやすくいえば、我々の日常生活に直接関わってくる簡易で便利なもの。そうした物の中で、両刃の剣と成り得る物だけを、除去しようという考えなのだという事だ。原子力然り、分子化学兵器然り、遺伝子操作然り。
 まあ、東洋哲学者であったジイサンは、ブッディズムの影響もあった事だろう。殊に、「禅宗」に詳しかったというが。
 そもそもキリスト教は、そういう曖昧な懐の深い教義を持つ宗教ではない。今日の信仰には、東洋の融合的な、神仏習合的な考えが混入したとも言えなくも無い。
 しかし、人間は「科学」を以ってして堕落したのだ、とでも取られそうな考えではある。
 勿論、反対派も少なくなかったようだ。
 オレは、ジイサンの死は知らない。生まれる前に死んだ事を聞いただけだ。
 だが、世間の風評を聞いている内に、平凡な死ではない事は、うすうす想像出来た。
「・・・テアトロ・ヴェッキオ。お前も行った事があるだろう」
 サン・スタエ教会の近く、《リオ・テッラ》から南に二区画下がった所にある、劇場の遺構。およそ五十年前にかつての石造劇場建築を偲んで再び建てられた。
 サン・カッシアーノ地区のカナル・グランデの裏手にあるコルテ(中庭)に入り込むと、目の前はすぐ劇場だ。十三世紀末の建築物が、一部残っている。
「前教皇インノケンティウス31世の観劇に、ジイサンと私は御供していた。他にも取り巻きは多くいたが、忘れた」
 オヤジは、いつもの飾らない口調で喋った。
 オレは天井を向いて、独白じみたオヤジの話を聞いていた。こういう時、どんな顔をしていればいいのか、思いつかなかったからだ。オレも大概、照れ症なのかも知れない。
「撃たれたのは、観劇が終って、テアトロを出る時だった。撃たれた、と思った時はもう遅かったよ。ジイサンは、前教皇の背中を庇う形で、飛び出していた」
「・・・・・・」
「私は、撃たれたと感じた瞬間、咄嗟にジイサンに突き飛ばされ、つんのめって暫く起き上がれなかった。実際に撃たれたのは、左腕を掠った程度の傷だったがな」
 オレは、視線をオヤジの横顔に戻した。
「前教皇は無傷。ジイサンは胸と首を撃たれ、病院に収容された一時間後に失血死した」
 ジイサンの享年六十八歳。六十八歳になって、その反射神経は驚嘆に値する。墓石には、こういう経緯は全く記されていないし、有耶無耶な事故死という事になっているのが、前から気にはなっていた。
 結局、スナイパーは数日後に逮捕されたものの、やはり反《科学撤廃主義》の単独テロルである事が判明したに過ぎなかった。
 だが、オヤジの話を聞いていても、オレの胸には余り響くものが無かった。
 如何にも作り話っぽいというのではない。オヤジの表情を見れば、下手な芝居をしているようにも思えなかった。
 そうではなくて、オヤジはまだいっぱい隠し札を持っていると感じたのだ。
 ジイサンの射殺された事実の裏に、見えない真実がまだあるような気がしてならなかった。
 それにしても、オヤジは何故今頃こんな話をし始めたのだ。今更命を狙われたからといって、言う事だろうか。アルジェリアでは、一言もおくびに出さなかった癖にだ。
 歳を取って不安を覚えたのか。
 そういえば、オヤジももう五十半ばだ。
 オレは、保存室のジイサンのなれの果てを思い浮かべた。
「しばらくは踊れないな・・・」
 オヤジは淋しげに呟いた。
「つまんない事考えるなよ」
 オレは、どうにでも解釈できるような曖昧な言葉を返した。
 
 ラグーナに浮かんだ少女は、検死の結果、失血によるショック死だという事が判明した。
 オレは、かなり判然としない心地で市警を出た。
 検死官の言では、少女は裸の上半身に弾丸を十二発被弾していた。それも総てパウダーガンに拠るものだ。
 弾丸は総て貫通。普通十二発も撃てば、よほど射撃に長じた人間でも、くたびれてくる。しかも貫通能力のある程度高い、破壊力のあるホローポイントを使用するには、それなりの技術が要る。
 かなりの至近距離で、しかも標的が静止していなければ全弾貫通など、不可能だ。
 オレは、少女が立姿勢で何かに固定され、為すがままに撃たれる様を想像した。
 その内、胸骨を砕いた一発が、致命傷となった。少女を殺害した人間は、息の根が絶えてから衣服を元通り着せ、ラグーナに棄てたのだ。
 プロの手口としか言いようが無い。オレは、とてつもなく遣る瀬無い気分に襲われた。鬼畜の仕業だ。酷いといえば酷い遣り方。だが、それが暗殺者の世界なのかも知れない。
 オヤジは、見ての通りの生粋の科学者だ。
 ジイサンはその対極にあるともいうべき哲学者だ。
 諸君、不思議に思わないか。
 そして、御多分に洩れず、オヤジとジイサンの間には多少学問上の確執があったという。それはそうだ。ジイサンは《科学撤廃主義者》であり、その息子はまるで逆の遺伝子工学者だ。相容れる筈がない。
 尤も、カエルの子はカエル、にならず、これはオヤジの方から別の道を歩み始めたのだが。
 オレはオヤジのような徹底した科学者の態度を取る人間ではない。然程感情的でもなく、戦略的に物事を考える性質だ。その点、オレはオヤジともジイサンとも少し違う。
 あまりに早熟すぎたからだろうか。大人の言動には、総て利害が絡んでいるように見える時もある。
 戦略的、とはつまり戦略にもいろいろあるが、オレの場合は堅固な要塞を自我の中に築き上げる事に始まった。大抵のヨーロッパ人の精神構造は、そうなっている。理論武装が得意だと言われるのは、そういう性質の人間のみが過当な生存競争に打ち克ってきたという歴史的背景を担っているのだ。
 城外の一般市民はどうか知らないが、それでも城塞文化に喰らい付いて来た者だけが、生き残ったのだろう。
 城の外は敵意に満ちている。オレは、自己意識の構築にのみ突っ走って来た、端から見ればまるで他人と相容れないようなイヤな人間だ。
 だが、一旦城を築き上げてしまえば、もう恐い物は無い。既に、社会生活に参入出来る様になった年齢で、オレは難攻不落の巨大要塞を自分の中に築き上げていた。教皇だろうが、恐怖の大王だろうが、オレの要塞を外から攻め落とすのは困難を極めるだろう。
 自信があるのないのは、無関係だ。人はそれぞれ己の城の大きさを見せ合って、互いを知り、自分を知る。
 後は、城外へ出て攻勢一本に出るか、誘い込むか、それは相手次第だ。異性関係に限らない。
 戦略とは、『哲学』をも捨て去る事だ。己が己に克つ為に。だからオレは『哲学者』には向かない。政治家に向いている、と言ったヤツもいた。
 だが、今の政教一体政治では、オレの活躍の場は確保されないだろう。オレの様な思想は、むしろ共和制政治により利益を齎すに違いないからだ。
 そうでなければ、オレは学問的な事に没頭して、適当に可愛い子ちゃんと遊んでいられれば、何の文句も世の中に無い。偉そうな事を言ってみたりもするが、所詮オレは人生経験の浅い、生意気な小僧でしかないのだ。
 オレは、水上バイクを止め、誰もいない自宅に入った。家のテラスからは、すぐ港に繋がっており、オレは玄関から出ずにいつもこの裏口から出入りしている。
 雪はすっかりオレの肩に積もっていた。ラグーナは恐ろしい程に凍れていた。
 自分の家に戻るのに、何の遠慮も要らない。オレは鍵も掛かっていない勝手口から、いつものように入った。
 入った瞬間に、違和感を覚えたのは何故だろう。これが自分の居場所とは感じられなかった。
 オレは、暫し周囲を見回しつつ、物置から浴室までの廊下に向かって歩いた。身構える必要はない。どんな屈強な男が空き巣に入っていたとしても、オレより腕っ節の強い人間はいない。
 仮に踏み込まれていたとしても、オヤジを狙った者ではない事は確かだ。狙撃者は、オヤジが警察病院にいる事を承知だからだ。とすると、オヤジの持つ何かが目当てか。
 そうとしか考えようが無い。こんな貧乏学者の家に空き巣に入ったって、骨折り損というものだ。
 リヴィングは、全くの手付かずだ。今朝出掛けた時のまま、変わりない。
 オレは、サイドボードまで歩み寄り、写真立てを直した。微妙に位置が違っているように見えたからだ。気の所為かも知れない。
 キッチンは、これも異状は無かった。
 一階は、ほぼ無傷だ。
 全く、幾ら人口が少ないし、島の上だからといって、やはり鍵は掛けて出るべきだったか。
 オレは浴室に入った。脱衣場の奥の洗濯場まで念のために覗いて見る。
 洗濯物を放り込んだ籠に、ふと目が止まる。
 オレはイヌのように、目を光らせ、汚れ物を掻き出した。女物の黒いスゥエーターを引っ張り出して、オレは徐に鼻を押し当てた。マリーナの物だ。
 諸君、オレは変態ではない。それだけは断っておこう。
 警察犬のように、オレはそのスゥエーターから、不自然な臭いを嗅ぎ取った。
 通常の生活をしていれば、まるで縁の無い物の香りだ。
 それは、オレの脳天に鉄槌を思い切り振り下ろしたような強烈無比な衝撃を、与えてくれた。
 オレの嗅覚は、何と罪作りなのだろう。
 また、そんな物を無防備に放置しておくマリーナを、オレは不可解に思った。迂闊なのか、何かの意思表示なのか。
 オレは、まるで自らのドッペルゲンガーが肉体を抜け出し、独自の意志を持って勝手に動き出したかのような不安な感覚を覚えながら立ち上がった。
「まさか・・・」
 と、オレは呟いて見せた。だが、浮遊する己の魂は、既にオレの堅牢な意志の砦を通り越していた。感情の海へまっさかさま。
 オレは、まるでロボットのように二階へと上がった。そして、マリーナの寝室やオレ自身の部屋には目もくれず、オヤジの寝室へと入った。
 ドアは半開きだった。
 だが、空き巣はどうやら紳士的に事を済ませて出て行ったようだ。
 オヤジのベッドはシーツが剥がされてくしゃくしゃになっていた。ライティング・ビューローは、引き出しが幾つか開いたままだ。
 机の上に乗ったパソコンの電源を入れてみる。特別異常は無い。パスワードが盗まれた可能性も無くは無いが、オヤジは研究上大事なデータを自宅に持ち帰るような事はしていない筈だ。そういうデータ管理を自分で出来るような器用さは持ち合わせていない。
 いずれ、オレがオヤジのそういう秘書的な雑務をさせられるのではないかと言う懸念さえあったが、それはマリーナという有能な助手と結婚した事で解消されると、オレは多寡を括っていたところだったのだ。
 オレは、手当たり次第、空き巣が狙いそうな所もそうでない所も、総て引っくり返した。後でオヤジが見たら、あんぐりと口を開いたまま茫然となるくらいに。
 オレの方が、むしろ空き巣ではないか。
 最後に、書類机のいちばん下を開けようとして、オレは鍵が掛かっているにも拘らず、無理矢理引き開けた。
 引き出しは、見事に壊れた。取れかけた取っ手をもぎ取り、オレは中を掻き回した。
「これは?」
 奥行き六十センチほどの深い引き出しの奥に、四角い箱が鎮座していた。オレは慌ててそれを取り出した。重い。かなり持ち重りのする箱だ。六キログラムはあるだろう。大昔のノート型パソコンかと思ったが、これまた鍵を壊して、オレは驚いた。
 開いた箱の中はご丁寧にシルクの紫色をした布が覆っていて、その下にあった物は、何とパウダーガンだったのだ。
 初めて見る漆黒のハンド・ガン。六弾装填のリヴォルヴァーだ。銃身に刻まれたラテン十字。その十字に絡みつく毒蛇の文様。
 《キングコブラ・バニッシュメント》と言う英語の綴りが読み取れた。
 オレは無意識的に、箱からリヴォルヴァーを取り出した。右手に握ってみる。初め重量感を感じる銃把だった。実に、本物のパウダーガンに触れるのは初めてだ。しかも、リヴォルヴァーだ。
 何だか、以前の持ち主の魂までもが憑依しそうなこの感じ。
 オレでも、現存するパウダーガンの殆どが、かつての銃をリメイクされた物だという事は知っている。この銃も原型は二十世紀のものだろうが、銘からしてそう古い物ではない。
 掌に吸い付くようなグリップは、強化プラスティックにラバーを張ったものだ。本体は総てスティール製で、重いのだ。それにしても、たかが38口径の癖に、重厚で厳つい銃だ。
 確か、名のあるパウダーガンは「異名」を持っている。
 所謂「二つ名」というヤツだ。
 これは《バニッシュメント》。つまり「追放」という二つ名。エデンから「追放」されたアダムとエヴァのエピソードを連想させる、人聞きの悪い二つ名だ。
 いや。これと対極ともいえる銃の名を、オレは思い出した。
 《ディオ・ファイア》。
 「神」の名を冠した最高のパウダーガンがあるのだとか。本当かどうか判らないが。そんな、見たことも無い銃よりも、オレはこの悪魔的に魅力を発する銃を手にしているのだ。
 思わず、オレは《キングコブラ》の造形の美しさに見惚れてしまっていたが、我に返ってみれば、こんな不思議な事はない。
 何故、オヤジのような科学者風情がパウダーガンを持っているのだろう。
 パウダーガンを所持するには、登録が必要だ。オヤジが密かにライセンスを持っているとは、考え難い。持っているとすれば、オレのボディーガードなんて必要ない。
 空き巣も間抜けな話ではないか。
 この家でいちばん高価なものは、このパウダーガンだ。希少価値のあるパウダーガンは、売れば数百万ダッシュは下らない。
 オレは、狐に抓まれたような気分になりながらも、見よう見まね、古のマカロニウエスタン・ムービーを思い出して、弾丸を装填した。
 だが、これが十分近くも掛かってしまった。357マグナム弾。見るからにリコイルが激しそうだが、オレの耐久力では、水鉄砲にも等しいものだった。オレの右腕一本は、ダブル・ライフル二挺分を抱えて射撃しても充分耐え得る。ハンド・ガンの50FT(フリー・リコイル・エネルギー)などは、たかが知れているのだ。
 オレは、複雑な気分で《キングコブラ》をジーンズの間に挟んだ。
 何故、オヤジの部屋をほったらかしにしたのだろう。何故、パウダーガンを物色したのだろう。
 それは、オレ自身認めたくない事だったが、オヤジはもう先が長くないと感じたからだ。
 明日か明後日か。
 オレ自身は、全くの無知でガキで、何も判らなかった。
 《キングコブラ》という銃を手にした時点で、オレの「運命の輪」のカードは開いた。その輪が思いも寄らない方向へ回り始めていたのだということも。
 オレはそうして、再び朝日が昇り、キオッジャ島を出る前に、幾つもの決心をしなければならなかった。


第三章(2)へつづく
 

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