
第十九話
〜千年の孤独 mille-solitalio 〜
(前編)
ひたすら荒野を行く二人の男がいる。
一人は己の生きる場所を求め、一人は己の死に場所を求めて。
第一章 隠者の道 孤独の谷 THE HERMIT PALACE
(1)
隊商は続く。照り付ける昼間の太陽は、遮るもののない旅人達の影を黒く濃く、砂漠に落としていた。
町中へと隊商は入場していった。高い城壁は、千年前と全く遜色ない程に堅牢で、また城内も賑わっていた。
これがかのアラムート城塞。
隊商は、かつては駱駝だった。だが、馬や駱駝といった動物による運搬は、現在は滅多にない。余程険しい小径を進む時のみ。
それ以外は、凡て高性能のサンド・バギーかジープ或いは二輪車によって行われる。それらの車両に掛かる必要経費に比して、生体の方が金が掛かるという明らかな証左に他ならない。
「見ろよ、駱駝だ」
ターバンを巻いた無精髭の男が、振り返った。小声で隣の女に話し掛ける。
「それがどうかしたの?珍しい事は珍しいわね、今時」
女は黒いフェルト帽子を被っていた。長い髪はその中に仕舞い込まれている。今や、ムスリムの解放政策によって顔を隠している女性は殆ど存在しない。こういったスタイルが普通だ。高山の民は、昔は男だけがこういう衣装だったが、今はそうではない。
その中でも、女の凛々しい美しさは特に目立った。自然に日焼けした小麦色の肌、高慢な程に通った鼻筋、やや肉感的なぽってりした下唇、中でも青い大きな瞳が情熱的な性質を体現しているように輝いていた。
「ここは単なる街中の入り口に過ぎない。奥にバギーでは困難な道があるってことだな」
男は煙草を咥えたまま言った。
咥え煙草の男ジョー・クリサンスマム異端審問官は、さながらムスリムの姿でこのアラムート城塞に侵入した。ジョーは肌が元々赤いので、日焼けも充分でなくわざわざ靴墨を塗ってそれらしく見せた。瞳の色は浅いが、混血なら有り得るだろう。
そして、傍らに居る長身の女こそ、彼の直属上司グレナデン・サフィールの姪、ミスティ・サファイアだった。
アラムート河に北面から直角に注ぐハシール・ルード河に沿って、美しく豊かな牧草地帯が広がっている。緩い傾斜の牧地から視線を上げて行くと、城塞が現れる。その背後には重畳たる山岳が聳え立っていた。
初秋とはいえ、頂上には薄っすらと白い斑が窺えた。
シーア宗イスマイリ派の暗殺者集団を生んだニザリ教団の主である、《山の長老》が築いた城は、この町並みのずっと奥に存在した。
城塞そのものをアラムートと呼んだのは、元々外界の人間だった。
土地のものは皆、「ハシール・ハーンの城」、もしくは只「城」、とだけ呼んだ。
アラムートという呼称は、アラムート河川流域一帯の地名であるのだ。
「何だか見るからに妖気漂う場所だよな」
ジョーは呟いた。同意を求めた訳ではなかった。
城塞の背後に聳えるハウデガン山は、花崗岩の懸崖で、山裾には頁岩(けつがん)の傾斜地が広がっている。上方には水源があるのだろう。それは十世紀も前から途絶えていないようだ。ものの本にはそう書いてあった、とミスティは思い返した。
「ここから『暗殺者の谷間』という場所を抜ける道がある筈だわ。恐らくはその奥、山の渓谷に《山の長老》の城はある」
ミスティは、ジョーに向かって言った。
「さすがに物識りなんだな、特務巡検使サマは」
「知らないアナタの方が非常識なのよ。仕事をする上で、当然の知識なのにね…」
ミスティは小馬鹿にしたように、ふん、とジョーに鼻を向けた。奇岩の谷間で捕らえた暗殺者集団の一行は、一人の案内人のみを残して、置き去りにして来た。もう今頃彼等も正気に戻っている筈だが、既に城塞に入った二人には追い付ける筈もなかった。
「《山の長老》の谷まで行けば、この男もお役御免というわけか」
ジョーは、傍らのムスリムの案内人を見た。
案内人は、聞き慣れないジョーとミスティの異国語による会話を聞く気もないようだった。ただ、重苦しい表情でいつもしょぼくれた髭を撫でているだけだ。
バザール(市場)では、新鮮な果物や穀類が遣り取りされていた。昔ながらの光景に違いない。
只異なるのは、家畜の売買が見られない事と、あからさまに武器商人が出歩いている事だ。
武器は伝統的な物ではない。所謂、ハンド・ブラスター(熱線銃)などの飛び道具、そして払い下げられた一昔前の軍用銃などが見受けられた。何れも合法的に商売されているとは思えない。
ラヴォーロ・ネッロ(闇取引)は、何もイタリア式だけとは限らないのだ。これらは、一般的にこの地域ではスークと呼ばれていたが、今では何が真っ当な取り引きかの分別をつけるほうが困難だ。
「丸腰で歩くのに吝かだというわけだな」
ジョーは湿気た口調で吐き捨てた。
「ディアスポラ中、何処を探したってナイフの一本も持たずに歩いている人間など、十三歳以下ではいないと思うけど」
ミスティが冷ややかな視線を送る。
まして、ここはヴァティカンの威光が届かないムスリム地域だ。
ディアスポラと呼ばれるユーラシア大陸のほぼ全土のうち、このカスピ海周辺及び旧トルコ領の半分に関しては、ヴァティカン国土省の管轄するところではない。
第三次世界大戦後、ヴェネツィア講和条約で結ばれた領土の保有のうち、この地域を含むカフカス山脈以南から紅海までは、ヴァティカンも放棄したままだったのだ。
ユーロ全域が自治領国家として、事実上は大戦以前と同じく機関しているのと変わる所は無い。
だが、殊に国際情勢上はムスリム地域は「継子」の状態である。今も尚息づいているトゥーラン運動(汎トルコ主義運動)と入り混じり、天然資源をほとんど失った中東は、内紛が絶えず行われていた。
《新十字軍》と皮肉に謳われたクルセイド(十字軍聖戦)が度々行われたのも、ヴァティカンと中東を巡る宗教的対立が建前なのだが、現実としてはこのバザールを見れば一目瞭然だ。
バザールの端々では、白い煙が狼煙のように上がっている。
白昼堂々と、住人達はハシーシュやガンジャと呼ばれる大麻を満喫しているではないか。
「あれがここらの商人の収入源というわけね」
ミスティは言わずもがなの事実を、言葉にしてみた。天然資源が尽きてからというもの、中東諸国の国力維持は大麻やマリワナなどの収入に頼る他無いのだ。殆ど、かつての南米諸国の状態といえよう。
最早、その南米も自治権を放棄してヴァティカンの国土に収まってしまった。だからといって、ドラッグの問題はまだ火種を残していたが。
白い煙とそれを一心不乱で追う浅黒い肌の男達を見ると、ミスティの胸中にサンチャゴ・エル・ブランコでの出来事が甦った。
「ムカツクわね。ああいうのは」
「あんたはそりゃムカツクでしょう、そうでしょう」
ジョーは楽しそうに言った。ミスティは、ジョーを無視してムスリム達を見ていた。遠くで揉め事らしい喧騒が聞こえてきた。
だが、幾ら路上喧嘩を見掛けても、係わり合いにならないのが身の為だ。
「さて、どうすんの?これから。取り敢えず小腹も減ったしなぁ」
「はぁ?」
ミスティは我耳を疑った。何を言い出すのかと思えばだ。
いよいよ本格的な任務に突入したとあっても、ジョーには緊張感が見られない。
既にUP(国際警察)の連中は、城塞に侵入していること間違いないのだが、姿は不明だ。尤も、隠密行動に長けた人選での侵入に違いないだろう。だが、同じ穴のムジナであるミスティ達にすら、その存在は嗅ぎ付けられなかった。
「はうっ」
ムスリムの案内人が、突然息を呑んだ。ミスティとジョーは同時に振り返った。
案内人が見たものは、バザールの石榴売りも同時に見ていた。
生成りのターバンを巻いた男が、ジョーとミスティの間を縫って駆け出した。男の勢いに、覚えず道を開けてしまった二人だが、その手に赤い飛沫が散っている。
ミスティは殆ど反射的に左手を閃かしたが、それをジョーが制する。
事を荒立ててはならない。ここはヴァティカンのお膝元ではないのだから。と、無言でジョーの瞳が語った。
男は、バザールの人込みに紛れて行った。五秒も経たないというのに、後姿すら見えない。
「父さん!」
少年の声が辺りに響いた。
石榴売りの露店の正面に、男が突っ伏していた。その背中に縋る少年の声だった。
「どうした、あんた!?」
石榴売りが慌てて小銭を投げ出し、男の傍らに駆け寄った。その大きな広い背中には、衣服を通して血が滲み出していた。瞬く間に地面に広がる赤黒い血溜まりが、出来事の重大さを物語っていた。
ジョーは、少年が頻りに揺さぶる父親の背中に手を置いた。少年の懐から、黒い猫が敏捷に飛び降りて、逃げ去った。
身体を抱え起こすと、ジョーは瞠目した。
男の負った傷は腹部だけではなく、喉元にもあった。頚動脈を一掻きで断ち切られていた。激しい出血は、その所為であり、即死状態に限りなく近かった。
「と、父さん…!」
少年は絶句した。父親の顔はみるみる青褪め、白目を剥いたままの断末魔の表情が残されただけだ。恐らくは、少年は一生この死顔を忘れないだろう。
「プロの暗殺者の手口だわ」
と、ミスティは冷徹な一言を投げ掛けた。誰もその言葉に反論する者はいなかったが、俄かにどんよりとした空気が溜まった。
曲刀一閃。それ以外に考えられない殺し方だ。最早、そんな古典的な武器は持て囃されないと思われる時代に、これだけの腕を持つ人間は、このアラムート城塞の奥に潜んでいる暗殺者のみ。
少年は、涙に濡れた面を上げた。色は白いが、何処か平面的で、目と目の間がやや開いた顔立ちだった。ミスティの青い瞳が少年を見ていた。何処か憂いを感じさせる美女の瞳に、少年は動揺した。寄る辺無い感情が噴出してきたようだった。
「…通り魔というワケではなさそうね」
「……」
少年は何か呟き掛けて、声を出せなかった。ジョーは黙って男の身体を抱えたまま、その瞼を下ろしてやった。最早、少年の父は生き返る可能性の道をとうに越していた。
「狙われていた、というの?」
ミスティは優しく少年に話し掛けた。
少年は黒い瞳を曇らせ、こくんと頷いた。
「《千年の孤独》…」
少年が呟いた言葉は、さしものミスティも全く聞き覚えが無いものだった。
「うひゃあ、《千年の孤独》だって?」
石榴売りが、吃驚したように言った。
「何なんだよ、それは?」
ジョーは、石榴売りを睥睨した。まるでゴルゴンに睨まれたかのように、石榴売りは一瞬固まってしまった。
バザールは再び賑わい出していた。死人が出る事など珍しくも無いのか、それとも皆ハシーシュに酩酊しているのかは定かではない。
石造りの壁に空間が仕切られ、些か狭苦しい。
肩が凝るような気分的な堅苦しさを、ジン・スティンガーはひしひしと感じていた。三次元の空間そのものとしては、広いものだ。だが、ここまでの道程においてサンチャゴ・エル・ブランコやドロレスの町自体に、こういう重苦しさは無かった。
開放的で軽やかな天幕が少ない所為もあろう。此処はイスマイリ派の本拠地、アラムート城塞なのだから。
本質的に、ジンは石造りの齎す、都市の狭苦しさが好きではない。
たとえアドリア海の貴婦人ヴェネツィアだとしても、町自体は荷馬車も入れないような袋小路が多く、何時なんどき暗殺者がうろうろしていないとも限らないのだ。都市というものは、ある意味とても閉鎖的だ。
そこはやはり、生粋のヨーロッパ人を理解し難い部分でもあった。
譬え世界でたった一人であろうと、ジンは日本人なのだ。
「お前、どうするつもり?こんな処で」
ジンは面を上げた。
場末の食堂に入るや否やの事だった。まるで、薄汚い大衆酒場にも似た食堂には、数人の客が既に席を陣取っていた。珍しい一見(いちげん)の客に、皆が振り向く。
ジンの目の前に腰を下ろしたのは、金髪碧眼のここらでは滅多に無い風貌の美男子だったからだ。アーチレリー・ブールヴァルドは、長い脚を組んで言った。
「どうするも、こうするも、オレはお前のお守役じゃないか。お前の言う通りさ。マダム、取り敢えずミネラル・ウォーターを一杯」
マダム、と呼ばれて店の女主人は一瞬きょとん、となった。生まれて初めてだろう、そんな呼ばれ方をしたのは。そして女主人はぽっと顔を赤らめると、そそくさとカウンターの奥で動き出した。
「…いいのか?それで」
ジンはサングラスを押し下げ、目の前の相棒の麗顔を睨んだ。
「はん?オレ様を解放してくれるっていうわけかい」
アーチは、ネクタイの結び目を緩めた。相変わらず派手な柄物だ。
「そりゃ願っても無いがな。青臭いガキと小便臭い小娘連れの旅ってのも、悪くは無いと思ってたが…オレは基本的には一人が好きだ」
アーチの視線を、ピーチィ・フィズの大きなはしばみ色の瞳が捉えた。少女は、相変わらず真っ黒に日焼けした頬をぷっ、と膨らませていた。だが、小作りな鼻先や口許は、何処か寂しげにも見えた。
何の話をしているのかは、嫌でも察しが付く。
それは、ドロレス・タウンの出来事に始まった。
ヴィヴィアンというヴァレンタイン家の家庭教師は、実際ディアーヌ・ブールヴァルドという女だった。アーチの生き別れた妹で、過去にいろいろ複雑な事情があるらしい。殺したの、殺してないの、フォーティファイド(強化人間)がどうのと。詳しい話は、ピーチィは聞かされていないし、また敢えて聞こうともしなかった。
好奇心旺盛なこの少女にしては、異例のことだったが。
いや、聞くのが恐ろしかったのだ。
自分が慕っているアーチレリー・ブールヴァルドの嫌な側面を知ってしまうかもしれない。その怖さが無意識に働いたのだろう。
見たところ、ディアーヌは生き別れになっていた兄に異様な執着心、或いは、歪んだ愛情を抱いているかに思えた。それもピーチィにとっては、好ましくは無かった。
「言ったよな。何れディアーヌはヴァティカンの手で処分を受けるかもしれないって」
ジンの「処分」という言い回しで、ピーチィははっと我に返った。
「何度も言わせるなよ。それはオレの仕事じゃない」
「わからねえな」
ジンは、溜息と同時に頬杖を付いた。アーチは、白衣のポケットに手を突っ込んだまま黙っていた。
「お前の言ってる事は矛盾だらけでねーの?」
ジンは、精一杯感情を殺して言う。眉間に縦皺が寄っている。
「矛盾の無い人間なんているのか?」
と、此方はやけに厭世的だ。
「医局長の命令で撃つ、とか言ってみたり、上からの命令なら仕方ないとか言ってみたり。今更そんでもって『オレの仕事じゃない』?だとぉ、ふざけるな!」
ジンは、テーブルをどし、と叩いた。
周囲の客が振り返った。ムスリム地域の人間に、言葉は判るまい。トランス(共通語)で話しているのだから。だが、不穏な空気は万国共通だ。
アーチは、ミネラル・ウォーターを運んできた女主人に愛想笑いをして、手を振った。見知らぬ人間に愛想笑いなどしないフランス人の癖に、妙な所はプライドも何もないヤツめ、とジンは内心忌々しく思う。
アーチはボトルを受け取ると、優雅な手付きで水をグラスに注いだ。
「聞いてんのか、手前ェ?」
「ああ。聞いてるよ」
「お前は実の妹を見殺しにするのか?」
ジンは、重々しく言った。
アーチの片眉が微妙に上がる。一気に水を飲み干すと、今度はアーチが反撃に出た。
「何言ってんだ、アホウ。アイツがそんなタマか?あの悪魔のタンパク質ウイルス《PE》を持ち出し、あまつさえばら撒くような女。シスター・アストリアを無意味に殺したうえ、マルド・スタウトまで死なせたようなもんじゃないか」
ジンは、思わず息を呑んだ。
「久方ぶりに再会したひにゃ、この期に及んで、手前の細胞から作った《ナノティクス・サプリメント》の副作用で苦しみもがく住人をキチガイ呼ばわりするようなヤツなんか、オレの妹だなんて反吐が出る程だがな」
アーチは語気も荒々しく言った。まるで親の仇のように聞こえるが、ピーチィの眼には、その瞳が深く澱んでいるかに映った。
「何処へなりと行けばいい。顔も見たくない、ってのは本音さ」
「手前ェ…!」
ジンは立ち上がった。
だが、それよりもほんの0コンマ数秒早く、アーチの方が椅子を立っていた。
ジンの右手がアーチの胸倉を掴もうとして、空を掴んだ。
客達が、唖然としていたのは無理も無い。アーチが力任せに腕を付いて立ち上がったテーブルは、真っ二つに割れていたのだ。
「…うっ」
割れたテーブルの一方が、ジンの向こう脛を直撃した。
「ううううう!」
喉まで出掛かった言葉も忘れ、ジンは腰を折った。皮一枚隔ててのみ骨に響く直撃は、ジンの理性を底から浚えて行ってしまったようだ。
「あ、あにしやがんだ!?手前ェ!」
「壊れたんだから仕方ないじゃないか」
と、アーチは平然と言う。ジンは向こう脛を押さえながら、顔を真っ赤にして叫んだ。目尻に涙が浮かんだ。
「た、譬え悪い事をしたって、相手は身内だぞ!身内を失うって事がどんなに辛いことか…」
「お前にとってはそうだろうよ」
アーチは激するでもなく、むしろ哀しみを帯びた口調で言った。
「お前は同胞(はらから)どころか、同人種さえ一人だっていやしない。じいさんを亡くした時の気持ちって、どうなんだろうな」
「想像出来るなら、つまんねえ事言うんじゃねえよ!このスカタン」
「ふん。オレには血の濃さだの縁戚だのはどうだって構わない。只、お互いの存在が必要であるという事以外に何もありはしない」
「訳のわかんねえ屁理屈言ってんじゃねえよ!」
アーチは、カウンターに歩み寄ると、ポケットからコインを取り出した。女主人はぼんやりとしていて、コインを受け損なった。だが、それはミネラル・ウォーターの代金にしては余りに多かった。
「悪いね、マダム。これで、壊したテーブルの弁償ってことにしてくれヨ」
「何処へ行く!?」
ジンは、まだ背中を丸めたまま店の入り口の方へ振り返った。アーチは、既にドアを押し開けていた。生暖かい空気が外から忍び込んだ。
アーチは振り返って、呟いた。
「ケツの青いサルの姿が見えない処」
ジンは、飛び跳ねながら入り口に近付いて行った。その背中をピーチィが引っ張った。
「やめな、やめなって!もう、こっぱずかしい男やねんから!」
「るせえ!止めるな、一発張り倒してやる!」
「逆に張り倒されておっ死ぬのはアンタやで!」
少女に言われて、ジンは反射的に足を止めた。周囲の客達の視線が、痛々しく突き刺さっていた。
第一章(2)に続く
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