第二十二話
 〜叛逆の暗天使 Vivo per la tua morte〜
(後篇)


終章 いとしい者へ FOR MY LITTLE LOVER  
 
 教会の鐘が、リンゴンと八つ鳴り響いた。
 朝を知らせる合図に、野鳥の群れが東の空へと飛び立って行く。墓地では、真新しい墓石の前に、毎日赤い花束が捧げられていた。
 礼拝堂は閉鎖され、重い錠前が提げられた。とはいえ、直にこの建物は教会の敷地もろとも無くなってしまうのだ。
「ほな、行こか」
 と、いつでも明るい筈のピーチィ・フィズの声も今日は何処か重さを感じさせる。
 ジンは少女に背中を押されて、漸く愛車《イケヅキCR-X》に跨った。イグニッション・キーを回す仕草ももどかしかった。
 荷物を背負ったピーチィが、後部座席に乗る。その温かみが、普段は暑くてジンにとっては鬱陶しいのだが、今日ばかりは不思議に懐かしくさえ思える。
「お前…」
 ジンは呟いた。
「なんやの?」
「少しは胸、成長したか?」
 言い終わらないうちに、ジンは強か少女の拳骨で殴られた。テンガロン・ハット越しに、頭頂に一発だ。
「いで。何しやがんだよっ」
「レディに向かってしっつれいな!ウチは成長期やねんで。まあだまだ、これから大きゅうなるって。ミスティ・サファイアになんか負けへんで〜。あと五年の辛抱や!」
 ピーチィは二の腕を捲る動作でガッツポーズした。
「見とけや。谷間で男を悩殺しちゃるっちゅーに!」
「アホか…」
 ジンはそれでも、面映くて苦笑を押し上げた。
「何だ。ここでも夫婦ゲンカかよ」
 と、ぼやいたのは中年目前の神父ジョー・クリサンスマムだった。
「ここでも、ってなんやの?けど、それにしては聞き捨てならへんね、その『夫婦ゲンカ』てのは」
 ピーチィは素早い突っ込みを入れた。ジョーは、咳払いしながら唸った。
「うー、いやいや。こっちのハナシ。それよか、出発出発。ナヒチェバンへしゅっぱ〜つ」
 ジョーはそう言って、ピーチィの後ろに跨った。
「おおい!それは無いだろ?それは重過ぎ。重量オーバー!」
「カタイ事言いっこナシ。ほら、エンジン動いてんじゃん。レッツらゴー!」
 叫ぶジンの頭を、ジョーは帽子の上から撫で回す。
「てんめぇ〜、このテロ神父。パンクするから降りろって!歩いて行けよ」
「歩いてなんか日が暮れら。いや、来年になっちまう。何なら、オレが操縦してやろっか?」
「あ〜、もううっさいなぁ!むさ苦しいし嫌やぁ」
 などと、大騒ぎしつつも《イケヅキCR-X》は、発進した。
 秋の気配が濃くなっていると、風が旅人の耳に語り掛ける。サン・タルカンジェリスの町外れに差し掛かった頃だった。
「あれ?何か聞こえるよ」
 遠くから犬の鳴き声が流れて来た。西に向かう風に乗って。
 小高い墓地に、小さな人影が一つ。そうして、その隣に動いている小さな影が見えた。恰も、風にそよぐように、影が揺れた。
「手ェ、振ってるよ。おーい!」
 ピーチィは、大きく手を振った。ジンはサングラスを押し下げた。人影は、確かに此方を見ているようだった。だが、屈託無く手を振る事はとても出来そうにない。
 ジンは、影に向かって軽くテンガロン・ハットを脱ぐ素振りをし、また被り直した。
「直ぐには癒されないだろう。だけど、きっとそのうちあの子とも、笑って会える日が来るさ」
 ジョーは咥えタバコで、ジンの心中を読んだかのように言った。
「だから、生きてないと。お前さんは、これからも生きていかないと」
 言葉が風に巻かれて行った。
 西へ向かう。西にはあの男が待っている。黄金の凶眼をしたパウダーガン使い。そして、その先には友が居る筈だ。

 
 <DISMISSED!>・・・CONTINUED ON NEXT DUEL

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